牛にも人にも安心なオーガニック飼料「菌床」ってなに?

牛にも人にも安心なオーガニック飼料「菌床」ってなに?

焼肉、すき焼き、ステーキ。日本人が大好きな牛肉を使った料理はたくさんあります。日本人にとって、もともとは食べる習慣のなかった牛肉ですが、今や食卓の主役といっても過言ではありません。

貴重なタンパク源でもある「牛肉」ですが、その安全性を考えたことはありますか?

そもそも牛肉は文字通り牛のお肉です。牛肉の安全性をきちんと理解するためには、その牛が一体何を食べて育てられたのかを知ることが必要不可欠なのです。

そこで今回は、牛の餌である「飼料」に着目し、牛にとって安全な飼料となっている「菌床」について、東京大学名誉教授・日本学術会議会員の眞鍋昇教授にお話を伺いました。

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眞鍋昇 東京大学名誉教授

人にとって良い「菌」とは?

真鍋教授:まず「菌床」の説明をする前に、「菌とはなんなのか?」について解説します。
世の中の生き物は、植物と動物に分けらるというのは誰しも知っているかと思います。生き物をその2種類に分ける考え方を「2界説」といいますが、我々専門家はさらに細かく「5界説」という分け方をしています。

筑波大学生物科学系,植物系統・分類研究室より

*引用元:http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~ken/phycological_images/etc/forewords.html

5界説とは、「動物界」「植物界」「菌界」「原生生物界」「モネラ界」に分けられます。

その中でも、今日は「菌界」に着目してお話をしていきます。

菌界には、文字通り「〇〇菌」というものが分類されるのですが、人間にとって身近な菌とはなんでしょうか?

ーカビなどの菌でしょうか?

真鍋教授:そうですね。カビというのはさまざまな場所や生き物に付着して、繁殖していくものですが、それと同じ生態を持っていて、なおかつ人間に重宝されている菌があるのは知っていますか?

ーちょっと想像できないですが……。

真鍋教授:それは「キノコ」と呼ばれるものです。

ー言われてみれば、キノコは菌の仲間という話は聞いたことがあります。

真鍋教授:菌の中でも「真菌」に分類されるものは、動物と同じ生き物なのです。

真菌に分類されるものとして、カビ、キノコ、酵母などが挙げられますが、これらは繁殖力が強く栄養も豊富なので、人間の食料としても活用されています。またこれらは健康に良いものとしても知られていますよね?

ーそうですね。塩麹や納豆などの「発酵食品」は体に良いといわれていますね。でもなぜカビやキノコなどは植物ではなく動物に分類されるのでしょうか?

真鍋教授:その答えはとてもシンプルで、カビやキノコは自ら栄養を作り出すことはできず、他者を捕食して栄養を摂取することで成長するからなのです。植物は「葉緑体」や「葉緑素」があるので、日光を浴びるたり空気中の二酸化炭素を活用することで自ら栄養を作って成長していきますが、真菌はそれができません。例えばキノコは、木に胞子が付着し、その付着した木から栄養を摂取して成長していきます。なので、キノコが生えている原木はボロボロになってしまいます。なぜボロボロになるかというと、キノコに栄養を吸われてしまうからなんです。

ーなるほど。だからキノコは植物ではなく動物という分類になるんですね。

真鍋教授:そうです。もしキノコが存在しなければ、樹木の成長を妨げるものがないので、地球に木が異常に増殖してしまうことになるんです。また、キノコとカビは同じ仲間なのですが、人が食べられので歓迎されます。しかし、餅やパンに繁殖するカビは良くないものとして扱われてしまいます。

ーそうですね。カビが生えてしまったパンは捨てますが、キノコはお金を払って買いますね。

人間が食べているキノコは、本体ではなく全体の一部

真鍋教授:キノコは栄養も豊富で美味しい食品として人間に親しまれていますが、実は我々が食べているキノコは本体ではなく、全体の一部だということは知っていますか?

ーいえ。初めて聞きました。

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キノコの生態について図を交えて解説してもらいました

真鍋教授:我々は普段傘と石突きで構成されている物体を指してキノコと呼んでいますが、これは「子実体(しじつたい)」と呼ばれる部分で、キノコにはその子実体以外にも植物の根のような部分があります。それらは「菌糸(きんし)」と呼ばれています。その菌糸の1本1本は顕微鏡で見ないと見れないくらい非常に小さいのですが、全体で見るとキノコという物体のほとんどを占めます。

わかりやすく説明するために椎茸を例にとると、原木から生えている椎茸1本あたり、原木の1本分くらいの面積の菌糸が張り巡らされています。それらを総じて「菌糸体(きんしたい)」と呼びます。

ーでもその菌糸体は食べれないですよね……。

真鍋教授:いえ。食べられますよ。しかも栄養価は子実体と変わりません。

ーそうなんですか? 私は食べたことがないのですが、どうすれば手に入りますか?

真鍋教授:現在は残念ながらその殆どが産業廃棄物として焼却処分されています。しかもその処理は業者に有料で依頼している場合が多いです。もったいないと思いませんか? ただ、やはり人間が菌糸体をそのまま食べるにはいささか抵抗もあると思いますし、キノコが生えている原木から菌糸体だけを取り除くのは大変難しいのです。

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原木から生えるキノコ

そこで、まずは家畜の飼料としてに活用され始めています。

ー家畜は原木も食べられるのでしょうか?

真鍋教授:そういうわけではありません。まず知っていただきたいのが、現状原木を使って栽培されているキノコはごく僅かで、スーパーなどでみなさんが購入するキノコはハウス栽培です。ハウス栽培の場合はキノコは、この写真のような形で栽培されています。

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ハウス栽培されるキノコ

このように原木ではなく、おがくずのようなもの固めてプランター状にして、そこにキノコの菌を着床させます。するとキノコが生える前に菌糸体がプランターの中で成長していきます。このキノコより下の部分を「菌床」と呼びます。

おがくず自体は食べられないので、その代わりにおからや米ぬか、大豆の皮などを使用します。

ーそうすると、菌床自体が食べられるようになるということですか?

真鍋教授:その通りです。さらにこの菌床となる部分には全てヒューマングレード(人間が食べられる基準のもの)を使用します。そうすれば、菌床そのものが安全な食べものになるのです。また、キノコの菌が繁殖する際に発酵もするので、わかりやすくいうと、菌床全体が「味噌」のようなものになります。

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菌糸体やおからなどが混ざり合い、食べることが可能な「菌床」

繰り返しになりますが、これらはの栄養価はキノコそのものと変わりません。
また、菌床の元となるおからや米ぬか、大豆の皮は、キノコの菌を着床させる前に滅菌をして雑菌を除去し、さらにはある程度の期間保存可能にするために、少量の麹菌を混ぜます。そうすることによって、発酵した状態を保ち香りも芳醇になります。牛は発酵食品を好む傾向にあるので、結果として菌床自体が牛にとって良い飼料になるのです。

ーこれまで廃棄されていたものが牛の餌として活用できれば、無駄も減りますね。

真鍋教授:そうですね。さらに重要なのが、牛が普段食べている飼料がこの菌床であれば、安全で栄養価の高いものであるということ。これこそが最終的に牛肉を食べる人間の「食の安全」に繋がるのです。黒毛和牛や国産牛など、牛のグレードや産地を気にする消費者は多いですが、牛が何を食べて育ったのか? を気にする消費者は少ないですよね。でも牛が食べている飼料は牛肉の品質はもちろん安全性にも深く関わってきます。一般的に牛が食べている飼料が何であるかはご存じですか?

ー牧草とかでしょうか?

真鍋教授:残念ながら牧草だけでは現存の全ての牛の飼料を賄うことはできません。また、仮に牧草だけで牛を育てようとした場合、しっかりとした管理の下、安全な無農薬栽培をする必要があります。そうなると莫大な費用と時間がかかります。

なので、トウモロコシや綿実などが資料として代用されていますが、それらの飼料自体の安全性は、しっかりと確認されているとは言い難いのが現状です。

しかし、この菌床であれば、人間が食べるキノコを作るためにしっかりとした環境下で管理されている訳ですから、製造過程での安全性は保証されています。したがって安全で栄養価が高い菌床を食べて育った牛の安全性は必然的に高まります。

ーそうですね。同じ牛の飼料でも、安全性と透明性の高いものの方が安心ですね。

菌床を餌とする牛は排泄物の匂いも少ない

真鍋教授:菌床が体に良いものであるかを裏付ける事実として、もうひとつ興味深い事例があります。実際に菌床を飼料として牛に与えている牛舎の管理人さんから「牛舎の匂いが変わった」という声も挙がっているのです。

ー変わったというのは具体的にどういうことでしょうか?

真鍋教授:牛が飼育されている牛舎の周辺は独特な匂いがしますよね? その匂いはどちらかというと人間にとって不快なものである場合が多いはずです。

ーはい。近くに牛舎があるような田舎道を車で通ると、独特な匂いがするので思わず車の窓を閉めてしまいます。

真鍋教授:菌床を飼料として与えている牛舎ではその独特な匂いがしなくなったという事例があるのです。あの匂いの元は牛の排泄物なので、排泄物の臭気が抑えられるということに繋がっていると考えられます。排泄とは文字通り生き物にとって不要なものを外に出す行為なので、排泄物には「毒素」が含まれています。排泄物の臭気の主な原因はその毒素にあります。そう考えると必然的に毒素が多い排泄物は匂いもキツくなります。その匂いがなぜ人間にとって不快なのかというと、それは人間が本能的に避けるべきものであると知っているからです。

ーつまり、匂いのキツイ排泄物には、人間にとって良くないものが多く含まれているということですね。

真鍋教授:牛の排泄物の匂いがキツイということは、それだけ普段牛が体に良くないものを摂取しているというという訳です。

わかりやすくいうと
「排泄物が臭い=良くない餌を食べている」ということになります。
従って「排泄物が臭くない=良い餌を食べている」ということにもなりますね。

菌床を餌としている牛が飼育されている牛舎の匂いがキツくないということは、菌床が牛にとって良い飼料であるという裏付けにつながります。そういう観点から考えても、菌床を餌としている牛の肉は、人間にとっても良いものであるといえますね。

まとめ

私たちの暮らしに欠かすことができない牛肉。近年その産地や品質に気を配る人は増えてきましたが、今回の真鍋教授のお話を伺って、それらに加えて安全性にも着目することも重要なポイントであるということがわかりました。

良い牛肉を選ぶためには、牛が何を食べて育ったか? というところまで追求することも、私たち健康を考える上で大切な要素です。

より安心で安全な牛肉を選ぶための基準として、「菌床」というキーワードを覚え、この牛の飼料は何なのか?という視点で選び、より安全な食生活を心掛けましょう。

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